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年下の上司 story1〜 April

100エーカーの森の人(3)


「ゴメン、果歩。急な仕事が入っちゃって、今日のお昼は行けそうもないわ」
「あ、うん、いいよ」
 果歩は携帯電話を切った。たまにランチを一緒に食べている、同期の友達からだった。
 電源を切った携帯を、座っているベンチの傍らに置く。
 4月も後半。風は、どことなく初夏の匂いを含み、暖かな午後になりそうだった。
 役所の屋上――果歩は、入庁以来手作りの弁当を持参しているが、天気のいい日は、同期の友人を誘って、屋上で一緒に食べる。
 入庁して1年目は、5、6人で集まって、食事もにぎやかなものだったが、その時の面子は、1人も本庁に残っていない。異動、退職、育児休業……理由はさまざまだが、実際、入庁してから今までの9年、ずっと本庁舎に残っているのは果歩1人だった。
 次々に若い女性が本庁勤務になる中、子育て世代でもある果歩の同期の女性は、どんどん区役所に回されている。
「……なんで、女だけが異動になるかなぁ」
 澄んだ空の下、ぽろっと素直に本音が零れ落ちていた。
 久々の晴天、そして4月の異動騒ぎもおさまってきたせいか、屋上はいつになく賑わっていた。数名の若い女の子たちが、空いたベンチを探してうろうろしている。4人はたっぷり座れるベンチにでんと腰を下ろしている果歩は、ささやかな優越感を感じつつ、えい、と腕を伸ばして伸びをした。
 さて、と、軽いランチボックスを膝の上から持ち上げる。
 目の前を、見慣れた巨体が横切ったのはその時だった。
「…………」
 藤堂である。
 手に大きなビニール袋を下げ、場所を探しているのか、きょろきょろしながら果歩の目の前を横切って―― 1分後、再び戻ってくる。
「係長」
 考える前に、つい声が出てしまっていた。
 あ、面倒なことしちゃった……と思ったが、ぎょっとしたように足をとめ、こちらを見た藤堂に、
「こちら空いてます。よかったら、どうぞ」
 と、声をかけてしまっていた。
 藤堂は――眼鏡の下に困惑を浮かべ、しばらく躊躇していたようだが、それでも、すみません、と言いたげな表情で近づいて来た。
「どうぞ」
 果歩は、ぎりぎりまでベンチの隅により、係長に場所を譲った。
「助かりました。すぐ、終わりますので」
 藤堂はすまなそうに言うと、やはり、ぎりぎりベンチの端に腰を降ろし、果歩との間に持っていたビニール袋を置いた。それはコンビニの袋で――
「……誰かと、待ち合わせですか」
 果歩は、つい聞いてしまっていた。
「いいえ」
 がさがさと弁当を出しながら、藤堂は短く答える。
「……じゃあ」
「すみません、全部、僕のです」
 諦めたような声ともに、藤堂はようやく顔を上げた。
「…………」
 はぁ、としか言えなかった。ビニール袋の中、弁当は……どう見ても3つは入っている。
「大メシ食らいでして……はぁ、それが恥ずかしくて、いつもここで食べてるんです」
「……そ、そうですか」
 思わず、自分の――サラダと豆しか入っていないランチボックスを見下ろしている。
 今度は、藤堂が、不審気な目で果歩の膝を見た。
「……よければ、僕のをひとつ」
「え、いえいえ、いりません、ホント、結構です」
 慌てて手を振って、思わず吹き出していた。
 なんだろう、この人――結構面白い人なのかも。
「スポーツか何か、やってらしたんですか」
「……少しですが、その時の癖が抜けなくて。これでも大分、量は減ったんですが」
「……癖?」
「当時は、1日5食、食べてましたから」
 見ていて気持ちいいほど、よく食べる男だった。
 正直、男がものを食べる様は好きではない。晃司が、時々妙にがっついて食事している姿など、幻滅を感じてしまうこともある。
 が、藤堂は――箸使いが綺麗で、食べ方に品があるせいだろうか。不思議なほど、嫌悪感がわいてこない。
 果歩は自分の手を止めたまま、つい興味を惹かれて、隣に座る男を見つめていた。
 スポーツをしていたのは学生の頃だろうが、その癖が抜けずに大食しているという割りには、藤堂は少しも太っていない。
 こうして太陽の下でまじまじと見ると、大きな体はひとすじのたるみもなく、綺麗に引き締まっているのがよく判る。
 まだ26歳という若さのせいか、肌はなめらかで、顎と首のラインが綺麗だった。
「あ……あの、この間は、……すみません」
「……はい?」
 早くも2つ目の弁当に手をかけた藤堂が、けげん気に振り返る。
「えっと……コピーです。お世話になりました」
「いいえ」
 それだけで、会話は途切れる。
 何も言わずに食事を口に運ぶ藤堂に、果歩は、不思議なくらい好奇心をかきたてられている自分を感じた。
「前は、何のお仕事されてたんです?」
「……事務です、今と変わりありません」
「……食事、いつも、コンビニで買ってらっしゃるんですか」
「一人暮らしなもので、つい」
「身体には、あまりよくないですね」
「……基本的に雑食なんです」
 藤堂は初めて箸を止めた。黒眼鏡ごしに、表情の読めない目が、じっと果歩を見下ろしている。
「……な、なんでしょう」
 今度は果歩が戸惑って、彼を見る番だった。
「いや、よく喋る方だと思いまして」
「……っ」
 ばっと赤くなっていた。
 こんなことを、異性に言わせてしまったのは初めてだ。
 職場では、これまで一度もしとやかな女性像を崩したことはなかったのに――どうして。
「僕は、元来、喋るのが苦手でして」
「……す……すみません」
 穴があったら入りたいとは、まさにこのことだった。いっそのこと、この場から消えてしまいたい。
「だから、よく喋る女の人といるのは、楽しいです」
「…………」
 あれ。
 ――あれ……?
 果歩は、無言できゅうりをフォークで刺して……何度も刺しそこねて、自分の感情に戸惑っていた。
 今、私、ドキドキしてなかった?
 今、私……この苦手な上司の言葉に、なんか、妙にときめいて……なかった?

 *************************

「なんだよ、それ。単なる時間の無駄使いじゃん」
 話を聞き終った晃司は、心底莫迦にしたような目でそう言った。
「2人がかりでコピーなんかしてどうすんだよ。しかも係長自らがコピーとか、管理職の自覚なさなすぎ」
「……うん。でも、本当に早く済すんだの、それで」
 用意してきた肴や料理のたぐいをタッパ―から出しながら、果歩は言った。
 土曜日の夜、休日出勤を終えた晃司のマンションに果歩が訪ねていく。それが2人の、ここ最近の付き合い方だった。
 果歩は両親と住んでいるが、他県出身の晃司は役所近くのコーポマンションでずっと一人暮らしをしている。付き合い始めの頃は、彼の夕食は、ほぼ毎日にように果歩が作っていた。
「あ、くそっ、惜しいっ」
 ビールを片手に、晃司はテレビのサッカー中継に見入っているようだった。
 そして、やはり、馬鹿にしたような口調で言った。
「くっだらねーな。そんなことでいちいち感謝なんかしてんなよ。馬鹿じゃん、腐っても役付きだぜ? それが庶務の女の子の手伝いかよ。他にやる仕事ないのかっつーの」
「そうかもしれないけど」
 晃司の皿に料理を取り分けながら、果歩は、少しだけむっとしていた。
「……私たちの時間給、分に直したらいくらだか知ってる? それが少しでも短縮できたのよ。役付きがどうとか言ってる場合じゃないと思うけど」
「…………」
 晃司は初めてビールを飲む手を止め、意外そうな目を果歩に向けた。
「……珍しいじゃん」
「何が」
「お前が、俺に言い返すなんて」
「……そうだっけ」
「そうだよ」
 かたん、と晃司はテーブルに缶ビールを置く。その目が、少し面白くなさそうになっているのに気づき、果歩は、ちょっと慌てて言いつくろった。
「春日次長の口癖だから。……移っちゃったのかな、時間給を分になおしたらってやつ」
「ああ、春日さんね」
 端正な眉に嫌悪を浮かべ、それはそれで、晃司はますます機嫌を悪くしたようだった。
 その理由を知っている果歩は、失言続きの自分に舌打したい気分になる。
 そして、ふと思っていた。
 こんな風に――晃司と、どこかぎくしゃくしてしまったのは、何時からだろう。
 昔は、こうも彼の顔色を窺うことはなかった。ぶっきらぼうで、いつも仕事優先だけど、2人でいる時だけは優しくて、言葉がなくても通じ合える安心感があった。
 今は……互いに忙しすぎるせいだろうか。晃司の言葉も態度も、時々、以前とは別人のようによそよそしく思える時がある。
「……あれ以来、大丈夫なのかよ」
「え?」
 はっとして顔をあげた果歩に、「春日さんのことだよ」と、苛立った風に晃司は言った。
「あ……うん、あれっきり。昔のことだし、春日次長も忘れてらっしゃるんじゃないかな」
 わざと明るく言って、「お茶持ってくるね」と果歩は席を立った。
 つきあいが長くなるのに比例して、情熱が冷めたように感じられる恋人が、それでも心配してくれてるのかなと思うと、さすがに少しだけ嬉しくなる。
 春日次長との因縁は、7年前にさかのぼる。
 入庁して1年目、まだ果歩が市長秘書をしていた頃のことだ。当時、総務局の総務課長をしていた春日とたまたまエレベーターで乗り合わせて、市長室のある10階で降りようとしたら、いきなり腕を掴まれた。
 びっくりして振りほどいたし、春日にも「ちょっと考え事をしていたんだ」と言い訳としか思えない謝罪をされたが、まだ22歳だった果歩には衝撃的な出来事だった。
 後でセクハラだったのかもしれないと思ったが、そんな些細なことを言い立てるのも恥ずかしい気がして、何年も誰にも話さずにいた。
 当時の春日は市長の信頼も厚く、将来の副市長候補として囁かれていたから、自分が何を言ったところで、誰も信じてくれないだろうという諦めの気持ちもあったのだ。
 あれ以来、目を合わせることもなくなった春日は、しかし何の因果か、一昨年から果歩の直属の上司になった。
 その時の報復なのか、単に果歩が気に入らないのか、春日は果歩に対してひどく冷たいし、当たりもきつい。それどころか、忙しい時に限って呼び止められ、厳しい口調で説教される。
 それも全て、腕を振りほどいた報復なのかもしれないと思うと、さすがに陰湿な男だと思ってしまう。
「ま、春日さんが役所にいる間は、俺とのことは黙っててくれよ」
 晃司は、再びテレビに目を向けながら、面倒そうな口調で言った。
「……どういうこと?」
 冷蔵庫を開けながら、果歩は眉をひそめている。
 そして、ふと、手を止めていた。
 いつもビールとペットボトルの水しか入っていない晃司の冷蔵庫に、ポン酢と焼肉のタレが入っている。
 何気なくそれを手にとってみる。半分ほど――使った痕跡。
「だって、春日さんの嫌がらせが俺にまで回ってきたら困るだろ。局の人事は実質あの人が握ってんだ。俺、こんな所でつまづくのだけはゴメンだからな」
「……そう」
 果歩はそれだけ言って冷蔵庫を閉じた。今の晃司の冷たさや残酷さよりも、今、目にしたものが、毒々しく胸にやきつき、動悸を嫌な風に高めていた。
 サッカー中継が終わったのか、晃司が無言でテレビを消す。
 コップにお茶を注いだものをトレーに載せ、リビングに戻った果歩は、そのまま膝ですりよってきた晃司に抱き寄せられていた。
「……ごめん、今日は……」
「あの日?」
「うん……」
 嘘をつこうかどうか、曖昧に迷っている間に、床に押し倒されていた。
 とても、そんな気分にはなれない。
 付き合って以来、晃司が自室で、料理をしたことは一度もない。いつも外食か、コンビニの弁当で――。
「……大丈夫じゃん」
「……晃司……」
 慣れた香りに包まれている内に、躊躇いも嫌悪も、少しずつ薄れていくようだった。
「晃司、ベッド……」
 大学時代にボクシングをしていて、アマチュアでは有名だったという晃司は、痩せていても、有無を言わさないほど強引で力強い。
「晃司、お願い」
「いいだろ、どこだって」
 晃司のセックスは、いつも一方的だ。果歩のことより、まず自分の欲望を優先させる。
 それも晃司が若いのと、仕事が忙しいからだと、諦めもついている。でも――。
 やがて、晃司の身体が熱を帯び、果歩はその背中に両手を回す。
「果歩……」
 情熱的に見つめられ、熱に浮かされたように口づけが落ちてくる。
 ――晃司が……好き。
 離れられないと、切に思う。
 こうして抱き合って、苦しいほどひとつになる度に、いつも――思う。

 *************************      

「どういうつもりだね、君は、一体なんの権限があって、こんな真似をする!」
 翌週の月曜日だった。
 那賀局長の使いで、隣町の法務省に寄ってから登庁した果歩は、いきなりの怒声に驚いて足を止めた。
 果歩の所属する総務課。
 声は中津川補佐のものだが、肝心の中津川の姿が見えない。それもそのはず、その補佐席の前に、大きな背が立ちふさがっているからだ。
 ――藤堂……係長?
「的場さん」
 背後から、トントンと肩をつつかれる。
 振り返ると、都市計画課のモーニング娘が立っていた。
 須藤流奈である。
「やられてますよ、おたくの新人カカリチョーさん」
 彼女の癖なのか、可愛い舌をぺろっと出す。
「どうしたの?」
 再び、視線を中津川と藤堂の背に戻しながら、果歩は訊いた。
「ついにキレちゃったんです。うちの補佐」
 流奈は、どこか楽しげな口調で言った。
 うちの補佐――と、流奈が言うのは、流奈の所属する都市政策部調整課の課長補佐、五条原義経《ごじょうがわらよしつね》のことだろう。優顔の小男だが、名前が強烈なので一発で覚えてしまった。
「おたくの藤堂さん、あんまり決裁が遅い上に、判が押せないって書類を突き返してきたそうなんです。それで、とうとう」
 と、流奈は藤堂の背に向かって、ピストルを撃つまねをした。
「パン」
「これが、どれだけ重要な決裁か分かっているのか。それを貴様は、何の権限があって、勝手に投げ返した」
 中津川は――元来短気で苛烈な男は、思い切り声を張り上げ、ばん、と机を叩いている。
 ようやく果歩にも事情がのみこめた。
 五条原補佐が、総務の課長補佐である中津川に苦情を持ちかけ、それを受けた中津川が係長である藤堂を叱責しているのだろう。
 課長補佐の中津川は、係は違うが、役職では係長より上である。
「はぁ、申し訳ありません」
 はじめて藤堂の声がした。
 その変らない口調に、果歩は、少しだけほっとしていた。そして気づく。中津川の背後には、都市政策の課長補佐、五条原が立っている。その五条原の隣には――。
 ――晃司……?
 晃司は、執務室の前に立ちすくむ果歩に気づいたのか、珍しく無視ではなく、ちょっとした目配せを送ってくれた。 
 それは――いい気味だろ、とでも言いたげな眼差しだった。
 要するに2人は、晃司の回した起案文書のことで揉めているのだろう。
 それにしてもひどい、と、果歩はかすかな憤慨を覚えた。
 中津川がたいした上司ではないのは、百も承知だが、他課の職員の前で、しかも、部下の前で、総務係長という立場の人間を、そんな風に叱責するのはひどすぎる。
 しかも、役職は上とは言え、中津川と藤堂は係が違う。決裁ラインがまるで違うのである。ここまで叱責されるいわれはどこにもない。
 果歩は救いを求めるように課長席と、そして背後の次長室を見たが、どちらも席空けのようだった。
「すぐに判を押したまええ」
 いらだった口調で藤堂を見上げ、中津川はそう言った。
「私が春日次長に説明する。さっさと君の、それだけしか意味のない、三文判を押したまえ!」
 確かに中津川が、就任早々のこの年若い係長を嫌っているのは知っていた。
「いや、もういい、私が代決する、もう君は何もするな!」
 が、いくらなんでもひどすぎる言い草だ。
「中津川補佐」
 果歩は足を踏み出した。
 とっさに声を出した後に、しまったと思っていた。
 ああ――私、またやっかいなことを……と、激しく後悔したがもう遅い。
 一気に自分に視線が集まるのを感じつつ、果歩は頬を赤くして言った。
「あ……あの、春日次長は、……代決を嫌われる方なんです。理由がないと、お許しにならないと思います」
 ばさっ、と目の前で紙が舞い飛んだ。
 それが、怒り任せに中津川が、果歩に向かって書類を投げたのだと――そう理解するのに、数秒を要していた。
「何を思い上がった真似をしてるんだ、君は!」
 果歩は、全身を赤くしてうなだれた。
 静まり返ったフロア中の視線が、自分一人に集中している。
「春日次長のことなら、私の方がよく知っている。庶務のくせに、仕事にいちいち口を出すな!」
 自分の手が震えている。
 大丈夫、果歩は自分に言い聞かせた。大丈夫、感情は――絶対に、抑制できる。
「………申しわけ……」
「さっさと、局長にミルクでも持っていったらどうかね、それが君の仕事だろう」
 やや、声をひそめた中津川が、今度は皮肉めいた口調で言った。
 少しだけ場が緩み、今度は、その場に立っていた都市政策の五条原補佐と晃司が、同時に苦笑する気配がした。
「すみませんね、五条原さん。どうもうちの庶務は使えないのが揃っていまして」
 中年男のみっともない激怒を冗談にすりかえようとでもしているのか、中津川は楽しげな口調になった。
「もういい、的場君、そこの資料を拾いたまえ」
 そして中津川は、自分で投げた書類を果歩に拾うように命じ、再度、藤堂に向き直った。
「藤堂君、とにかく判を押したまえ、それが君の仕事だろう」
「できかねます」
 驚くほど、きっぱりとした声だった。
 藤堂は、大きな体だということを意識させない素早さで、落ちていた書類を拾い上げると、それを丁寧に中津川の机の上に置いた。
「僕の決裁権は、僕のものです。上司の命令で、判を押すようにはなっていません」
「……な、」
 中津川は、ぽかん、と口をあけている。
「なにを、言っとるんだね、ど素人の……くせに」
「代理決裁をなさるなら、ご自由にどうぞ。僕は、判を押せません、理由は、前園さんに説明しました」
 それだけ言うと、藤堂はさっさと背を向け、自席に戻った。
「すみませんが、的場さん」
 柔らかな声がした、果歩は――さきほどから固まったまま動けなかった果歩は、強張った顔を、藤堂に向けた。
「資料室から、前年度の議会答弁を持ってきてもらえますか」
 藤堂の表情は、先ほどまで叱責された男のそれとは思えないほど、穏やかで落ち着いていた。
「……あ、はい」
「申し訳ない。場所がよく分かりませんでした」
「すぐに」
 中津川が、何かをわめていている。その声を聞きながら、果歩は逃げるように執務室を後にした。


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