「的場さん」 爽やかに呼びかけられて、あー、今朝はだるいわ……生理2日目ってマジ最低……生理休暇なんて無駄な休暇、いったい誰が考えたんだろう。男性上司にそんなものどんな顔して回せばいいってのよ、全く。―― と考えていた果歩は、ぎょっとして顔をあげた。 「あ、お、おはようございます」 給湯室。 その男性上司が、目の前に立っている。 「おはようございます」 いつにない清々しさで、にっこりと笑いかけると、藤堂は袖をまくって戸棚からカップを出し始めた。 なんだろう。何かいいことでもあったかな? 昨夜は、そういえば珍しく戻って来なかった。果歩の携帯に連絡があって、今夜は戻れそうもないので、机の上の決裁だけ収めておいてくださいとの指示があった。 もしかして、ずっと抱えていた何かの悩みの、その答えが出たのだろうか。 「的場さん」彼が、再度果歩の名を呼んだ。 「……すみませんでした」 ――え ? 何故に謝罪? 振り返ると、藤堂はカップを出す手をとめ、果歩に向きなおってわずかに頭を下げていた。 「ここ数日……色々、僕1人が思い詰めたり、突っ走ったりしていて……」 「…………」 はぁ。 よく判らないけど、どのあたりが思い詰めたり、突っ走ったり? 「あれから少し距離を開けて考えて、ようやく頭の中がすっきりしました。もう、あんな過ちは二度と犯しません!」 きっぱりと真顔で断言され、果歩は、逆に混乱している。 え、それは……なになに? 過ちって、まさかと思うけど、あの夜のこと? 「今年もあとわずかですしね」 果歩の動揺もよそに、藤堂は実にすっきりした顔で微笑した。 「来年は、ますます気を引き締めて頑張ります」 いや…………。 そんな決意、いらないし…………。 「あの……じゃ、」 クリスマスは? 藤堂さんが、計画してくれるって言った、クリスマスはどうなるの? 「あ、そうだ、的場さん、クリスマスなんですけどね」 まるで心を読まれたみたいに、いきなり藤堂が切り出した。その時、「おはよーございまーす」と流奈が入ってきたので、果歩は慌てて、藤堂に手でバツ印を送っている。 が、彼は訝しげな目で続けた。 「実は、すごくいい計画を思いついたんですよ。昨日買ったタウン誌に出ていたんですが……」 ************************* 「釣りですか」 「乃々子、行く?」 「え、みなさん……行かれるんですか?」 「まぁ、補佐と係長の発案だし、なんかこう、ずっとぎくしゃくしてた課が、ようやくひとつになった的なイベントだから」 果歩を見上げ、乃々子は初めて眉を寄せた。 「……なんだか的場さん、やさぐれてません?」 午前中、急な会議と来客が立て込み、執務室には果歩1人になっている。 「そう? 気のせいよ」 「そうかなぁ、……まぁ、行ってもいいですけど、釣り道具とか持ってなくても、大丈夫ですかね」 「そんなもの、普通の女子は持ってないわよ。流奈は張り切ってウェア……ってそんなものあるの? 釣りの世界に」 「さぁ……」 「まぁ、なんだか全部揃えるって張りきってたから、私たちも負けずに何か買いに行く?」 「てか、須藤さんも参加ですか?」 「その場にいたからね。まぁ、仕方ないっていうか、無神経っていうか……」 藤堂さんが。 「冬釣りかぁ……寒そうですね」 と、言いながらも、乃々子はなんだか嬉しそうだった。 「…………」 果歩は憮然としつつ、乃々子から受け取った報告もののチェックをはじめた。 それ以前にクリスマスイブに釣りよ? まずはそこにつっこんでよ。 そもそも、いったい、なんだってこんな結末になってしまったのか―― 。 パーティションに仕切られた奥の会議スペースでは、藤堂と中津川、そして谷本主幹の3人が、顔を突き合わせるようにして協議をしている。 時折「何を言っとるんだ、君は」「君のような若造が口を出すことではない」という中津川の、以前と全く変わらない皮肉や嫌味が飛んでいる。 藤堂は、さほどこたえた様子もなく、「はぁ、しかしですね」「それでも、少しおかしいと思うのは―― 」と、のらりくらりと粘り強さを発揮している。 ま、いいか。 結局何が起きたのかよく判らなかったけど、ひとまず、元通りってことで。 ――まぁ、……少しは進化したのかな。 (24日に、課のみなさんで、海釣りに行きませんか) 今朝、藤堂が、多分全員にとって唐突に言い出した時、最初は全員が「は?」「すみません、用事があるんで」「なんだって釣り? イブにそんな暇人いねーよ」 という反応だった。が―― (補佐が、いい釣り場をご存じのようなので)藤堂は続けた。 (船もチャーターしてくださるそうですし、どうですか、みなさん) その途端、谷本主幹と新家主査が相次いで手を挙げた。 (行きますよ、そういうことなら) (いやぁ、冬の海釣りなんて何年ぶりですかねぇ) その空気を機敏に読んだ水原も手を挙げた。 (南原さん、僕、合コンキャンセルします!) (ええっ、水原、それはねぇだろ) そして、補佐以下全員の参加が決まったのだった。 果歩の参加は、流奈が参戦した時点で決まっている。 期待が大きかった分、あまりといえばあまりの結末であったが、課のみんなが……実のところ、ずっと中津川のことを気にかけていて、今回の藤堂の提案を、積極的に受け入れてくれたのは嬉しかった。 気のせいかもしれないが、コーヒー事件以来、ずっとしこりになっていた課内の大きな溝が、なくなったような気がする。 むろん、コーヒーに関しては補佐は相変わらずで、今日もペットボトルを持参しているようだったが。 ――にしても、釣りかぁ……やったことないけど、少なくともスポーツとは違うわよね。ただ釣り糸垂らしてりゃいいんだろうし、私でも大丈夫かな。 しかし、恋という名の釣り糸には、余計なものばかり引っかかってくる昨今、本番でも、全く釣れる気がしないのは何故だろう。―― ************************* とはいえその週の土曜には、果歩は乃々子を連れて市内のスポーツショップを訪れていた。 行くと決めた以上、完璧な装備(ただし、防寒という意味ではなく)で挑みたいのは、独身女性に共通する乙女心である。 「ボーナス出たばかりで、助かりましたね」 「そうね、イブなんだし、気合いいれなきゃ!」 市内屈指のスポーツ量販店は、休みの日とあって、かなり込み合っていた。 むろん、人気コーナーはスノボやスキーなどのウインタースポーツで、釣りコーナーなど……探すのに、ものすごく苦労したほどだ。 「あまり可愛いのないなぁ」 「スノボ用の防寒着とかでもよくありません? 何も釣りにこだわらなくても……」 「そうねぇ」 人ごみを縫って移動しようとした時だった。 ふと、果歩は目を止めていた。 少し離れた場所に、仲睦まじく腕を組んで歩いているカップルがいる。 不機嫌そうな男のほうが、少しばかり晃司に似てるな、と、思いつつ、視線を元通り乃々子に戻した。 「時間あったら、別の店にも行ってみる?」 「そうですね、……あれ? あの人、前園さんじゃありません?」 「いや、私も似てると思ったけど」 「いや……多分本人ですよ、だって」 その時には、晃司の連れのほうが、果歩たちに気がついていた。 「あっ、お姉さん!」 ぎょっと、果歩は凍りついている。まさかと思うけどこの声は……。 「お姉さん、こっちこっち。わぁ、奇遇ですねぇ、こんな所でお会いするなんて思わなかったな」 長妻真央……。 バニラ色の袖なしダウンに、プリーツの入ったミニスカート、ムートンブーツという、思いっきり可愛らしいスタイルである。 「今日はお兄さんとデートなんですよぉ、ねっ、お兄さん」 「か……果歩」 片や晃司は、蒼白になっていた。口を死にかけの魚みたいにパクパクさせて、何かを必死に訴えているのが判る。 晃司…………。 あんたの二股ぐせ……本当に直らないんだね。わかってるわよ、最近の晃司には借りばっかだから、安藤さんには絶対言ったりしないから。 「じゃっ」 にこっと笑った長妻真央は、そのまま晃司の腕をからめとって歩き出した。死刑執行される死刑囚みたいな形相で晃司は振り返り、必死で口を動かしている。 果歩は、安心して、と目で伝えて頷いてあげた。 しかし……情けない。女子高生にまでいいようにされているとは……最近の晃司はどうなってるの? 「何か、誤解だとか、これにはわけが、とか、そんな風に言ってるような気がしましたけど」 乃々子が不思議そうに呟いた。 「あと、聞き違いじゃなかったら、お前のためを思って、とか……意味判ります?」 「……? さぁ、まぁ私、なんだか意味もなく前園さんの彼女に睨まれてるみたいだから、そっち系かな」 「えっ、あの人彼女がいるんですか」 「あれー? 知らなかった? 秘書課の安藤さんとつきあってるみたいだよ」 「えーーっ、すごいニュースじゃないですか、それ」 女子の口の軽さを晃司は知らない。 にしても、本当に情けないなぁ。 果歩は嘆息して、「じゃ、別の店に行こうか」頭をさっさと切り替えた。 ************************* 「ふざけんな、なんなんだ、あのジジィ、冗談じゃねぇぞ」 息まいて、椅子を蹴りあげる友達を、蒼衣は冷めた目で見つめていた。 「ま、しょーがないじゃん、あんな形で逃げられちゃったんだし」 「今月の上納が滞ってんだよ」 舌打ちをしながら立ち上がったのは、ヒデと呼ばれる、この中ではリーダー格の男だった。色白で、一見、ほっそりとした長身の優男だが、一度切れると見境がなくなるため、蒼衣が一番警戒している相手である。 「蒼衣、お前、相手の連絡先、全部つかんでんだろ? いっちょ、脅しかけて呼び出してこいよ」 「あのオジサンはよしとこうよ」 肩をすくめて蒼衣は言った。 「もともとお花畑の客じゃないもん。パチった財布届けただけ。まぁ、中身があんまショボかったんで、いくらかぼったくろうと思って持ってったんだけどさ」 「あのオヤジ、年甲斐もなくお前に本気で惚れてるみたいだったしな」 にやっと笑い、ヒデは蒼衣をねめつけた。 「君は騙されているんだには、マジ受けた。お前、どんだけいい子になってたんだよ」 「きしょいっつーの。だからもう、あんな面倒なのはゴメンだよ、悪いけど二度と関わり合いたくない」 「それでも、客にしようと思ってつきまとってたんだろ?」 「…………」 (あの時は、じろじろ見てしまってすまなかったね) (なんでだろう。嫁にいった娘がそこにいるような気がしたんだ……錯覚だがね、君の雰囲気が、娘にひどくよく似ていたから) (……今月だけでいいんだ。わしと少し、つきあってくれんかね。いや、間違ってもおかしな意味で言っているんじゃないぞ) 「あのデカいサンタも、役所の奴だろ?」 仲間の一人の声で、蒼衣は我に返っている。 「あのオヤジのこと、補佐って言ってたからな。あんだけデカイ奴はそういないだろ。探り入れたら、もう1人カモが引っかかるかもしんねぇぞ」 「よしとこうよ、もう」 うんざりしながら蒼衣は言った。 「警察が動いてんの、知ってるでしょ? お花場畑はもうやばいって。早くばっくれたほうが正解だと思うけどな」 「……いつから、俺に意見できるようになったよ」 冷たいヘビにも似た目で見つめられて、蒼衣は身を強張らせていた。 「お前は、俺らの言うとおりにしときゃいいんだよ。とっととオッサン呼び出してこい。でなきゃ、どうなるか判ってんだろうな」 「はいはい、そこまで〜」 陽気な声が、陰鬱な空気を切り裂いた。文字通り切り裂くようにして、闇が開け、閉ざされた店内に、外の明かりが差しこんでくる。 「ちょっ、なんだよ、あんたら」 「警察です」 2人の男が立っていた。2人だが、圧倒的な存在感と迫力がある。 こう言う場面に立ちあったことが一度ではない蒼衣は、即座に彼らがマル暴の連中だと理解した。逃げようとしたところを、腕を後ろから取られている。 「ちょっ、あたしは無関係だよ」 「心配しなくても、何も補導しに来たわけじゃないよ」 腕を掴まれた背後から、やや呆れたような声がする。 「僕らが、何かしましたかね、おまわりさん」 蒼衣よりさらに場慣れしているのか、ヒデは落ち着きはらっていた。 「見てのとおり、毎日、古着屋で、汗水たらして働いてるだけですけどね」 「もちろん僕らも、真面目な納税者相手に、無茶なケンカ売ったりはしませんよ」 大柄な私服警察官は、とぼけたように言って肩をすくめる。 「なぁんだ、緒形さんか」 不意に、仲間の1人が気が抜けたように呟いた。 「ひどいな、俺ら顔馴染みじゃないっすか。いつも協力してんのに、いきなり踏み込むってのはルール違反っしょ」 「警察はルールを破りませんよ?」 妙なリズムを持つ男は、そう言って目を細めた。 「ただし、そっちが、ルールを護ってくれればね」 ――なんだ、こいつらもこっち側なんじゃん。 警察の一部が裏世界に取り込まれていることは、蒼衣のような末端でも知っている。 だから、正義の味方を無条件に信じてはいけないことも、骨身に染みてよく判っている。 「実は、ある筋から通報がありましてね。少しばかり放っておけない事態になったんですよ」 意味深なことを言って、警察手帳をくるくるっと回すと、男は、それをマジシャンみたいにポケットにおさめた。 蒼衣はもう1人の刑事に腕を取られたまま、日本人離れした容貌を持つその男を見上げている。 「任動かけてもいいと思いますけどね」 背後の刑事が不服そうに呟いた。「そいつら、叩けばいくらでも埃が出てきますよ、多分」 「三宅君、君はその子を保護して家まで送り届けてあげて」 「へいへい」 「それから、次に同じことしたら、即少年院だってよく教えといてあげて」 「刑事さん、意味、わかんないんスけど」 ヒデが笑いながら口を挟んだ。「その子、俺らの友達で、ただ一緒にだべってただけですよ」 「未成年を巻き込んじゃいけないなぁ」 にこっと、初めて優しげに緒方と呼ばれた刑事は笑った。 「そいつは、ちょっとしたルール違反だ。今日はね、忠告に伺ったんですよ」 が、蒼衣には、その笑顔はむしろどんな悪党よりも恐ろしく見えた。 こいつは、単にこっち側に取り込まれた警察官なんかじゃない。 犬の仮面を被った、狼だ。 「三宅君、その子を早く」 「はい」 後ろからひっぱられ、蒼衣は若い刑事に引きずられて外に出される。 「あんたもグル?」 振り返った蒼衣は、三宅と呼ばれた刑事を睨みつけた。 刑事にしてはまともな男の顔をしている。凛とした眉、精悍な目、がっしりした唇、見かけは正義の味方みたいだ。 「あんたの連れ、上の連中と通じてんでしょ、それくらい判ってるよ」 男の眉がたちまち険しく跳ね上がった。 「ガキ、知った風な口を叩くな」 「そんなことより、あのオジサンに手を出さないように言ってやってよ。忠告ってそんな温いことやってる場合?」 「……悪いが、俺らの相手は、お前らみたいな雑魚でもゴミでもないんだよ」 凄味を帯びた目に、蒼衣は何も言えなくなっている。 「二度と滅多なことは言うなよ、本当に鑑別所にぶちこんでやるからな!」 ************************* 「そういえば、こないだのお連れさん、どうなりました?」 マスターに声をかけられ、水割りのグラスを唇につけていたりょうは、顔を上げた。 世間的にはクリスマスイブイブの夜。 ショットバー「Dark clow」。 なんだってこんな美人に、イブもクリスマスも、仕事の予定しか入っていないんだろう――と、ふと不思議な現実に立ち返っていた時だった。 「誰の話?」 りょうが訊くと、クリスタルグラスを磨いていた黒服の男は微笑した。 「宮沢さんと年が同じくらいの、チャーミングなお嬢さんですよ」 「ああ、果歩」 上目遣いに、すっかり馴染みになった男を見上げる。 「マスター、もしかして、あの時の話、聞いてたんだ」 ホームズとワトソンの会話―― 。 ワトソンが延々と語った愚痴だかのろけだか判らない謎を、ホームズが完全無視した夜のことである。 「とても面白そうなお話だったので」 「じゃあ、モリアリティ教授に質問」 グラスを置いて、りょうは肘をついて頬を支えた。 「果歩は、誘惑に弱い犬だって言ってたけど、寝ている時に気配を感じて、いきなりその気になっちゃうもの?」 「気配というより、香りでしたね」 「ああ、そう、匂いね」 マスターは微笑した。 「普段からその状況を、頭の中で何度も想像していたら、起こっても不思議ではないと思いますね」 「匂いだけで?」 「匂いだけで」磨きあげたグラスを、棚にしまう。「勃ちますよ、男は」 「はっきり言うなぁ」 くすくすとりょうは笑った。元々男か女か判らない不思議な雰囲気を持っているマスターだけに、そんな言葉にもあまり抵抗を感じない。 「じゃ、果歩だって判ってたってこと?」 「ですから、普段からそうだったんじゃないかと」 「普段……」 「すれ違う残り香を感じただけで、その人が欲しくなっていたんじゃないですか」 「それ、果歩に聞かせてあげたいわ」 りょうは軽く肩をすくめた。どっちの罪が重いか、判ってるのかしら、本当に。 「じゃ、ついでにもうひとつ。果歩は随分ぶーぶー言ってたけど、彼の態度がころころ変わる理由は?」 「くっついてきたり、離れたりですか」 「うん」りょうは笑った。「襲われたり、突き離されたり」 「それは、最初の質問より随分簡単だと言えますね。いくらはずみとはいえ、一度ラインを超えちゃったら、もう男は止まりませんから」 「離れようと心に決めても、ついつい体は引き寄せられてしまうと」 「その度に、繰り返す我慢も限界に近づいている」 「だから逃げる?」 「一度暴走しかけたんでしょ? 香りにさえ反応するくらいなら、そりゃ、逃げるしか術はない」 「気の毒に……」 「理由は想像もできませんけど、僕もそう思いますね」 まぁ、問題は、その理由が何なのかだけどね。 あまり……複雑なことにならなきゃいいけど。 藤堂君は嫌いじゃないけど、果歩にふさわしいかといえば、微妙かな。 どっちかと言えば―― 。 「それにしても、今夜はお客さんが来ませんねぇ」 「そうねぇ」 「少し早めに締めようかな」 独り言のように呟いたマスターは、ちらっと横目でりょうを見た。 「……もう、来ないと思いますよ」 「誰の話?」 「いや、もしかして、誰かをお待ちかと思ったものですから」 「…………」 誰か。 私が―――? 「ふむ」 「そんな難しい顔をされるとは思わなかったな」マスターが苦笑している。 「ただの、水商売男のカンですよ」 「いや、すごく難しい問題だから」 私が誰かを待っている? 誰を? 「…………」 もしかして、私。 あの男のことが、気になってる……? |
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